2013年3月2日土曜日

Super-human athletes


Lance Armstrong Flickr










世界的な自転車ロードレース、ツールドフランス(以下ツール)で1999年から2005年まで7連覇した米国人ランス・アームストロングが、先日のテレビ番組で、その間のドーピングを告白した。ツール七連覇は、ドーピング無しには成し得なかったと。

http://www.bbc.co.uk/sport/0/cycling/21065539


彼は、もともとトライアスロンの選手で、ツールでの偉業を成し遂げる前に、当時致命的と思われたガンを克服し、そのプロセスを「ただマイヨジョーヌのためでなく(It's not about the bike)」という自伝に著した。




 黄色いリストバンドがシンボルになったガン撲滅運動の中心人物であり、自転車の世界だけでなく、スポーツ界全体を通して最も著名なヒーローの一人となった。2005年のツール後に一度引退し、2009年に復帰して、その年ツールで総合三位になり、2010年も出場したが結果ふるわずそのまま引退した。自転車ロードレースの他のトップ選手たちと同様、当初からドーピング疑惑のあった人物だが、何故か彼だけが検査で陽性と判定されることは無く、本人も否定を続けた。しかし、近年になって元同僚選手やジャーナリストによる告発が相次ぎ、去年、本人による告白の前に、米国の反ドーピング機関から、ツール七連覇やシドニーオリンピック銅メダルを含むほとんど全ての記録とタイトルを剥奪され、トライアスロンを含むすべての自転車競技から永久追放の処分を受けた。

http://prcr.jugem.jp/?eid=367


 私はたまたま、ランス氏の復帰の時期に、自転車の魅力に取り付かれ、著書を読み、トライアスロンを始め、ファンとなった。なので、今回明らかになったことは残念で仕方が無い。しかし、普通の人間がどんなにうまく薬を使ったとしても、彼のように走れるはずも無く、彼の節制と努力、才能は本物だと思う。自転車選手としての能力は、薬の助けを借りなくても、他の多くの選手に比べて飛び抜けていたように感じる。





 さて、自転車に限らず、スポーツの世界でのドーピングは、アスリートのパフォーマンスにどの程度の効果をもたらすものなのだろうか?参考になる最近の資料を見つけた。

http://www.nature.com/news/performance-enhancement-superhuman-athletes-1.11029


 この記事は、制限なくドーピングを行うとヒトの運動能力はどこまで向上するか?というもの。この記事の言い方を借りれば、ランス氏は、まさにsuper-human athletesの一人である。
 タンパク質の生合成を促進するアナボリックステロイド類のドーピングを、適切なトレーニングと組み合わせることにより、男性で38%、女性ではそれ以上の筋力の増強が期待出来るそうだ。ヒト成長ホルモンによるドーピングは、(一般スポーツ愛好家の場合)短距離走の能力を4%高める。つまり100mを12秒で走れるランナーは11秒5で走れ、50mを30秒で泳げるスイマーは28秒8で泳げるようになる。
 一方、マラソンやトライアスロンなど持久系のスポーツに効果があるのは、血液ドーピングである。主に、エリスロポエチン(EPO)と自己血輸血(blood transfusion)の二つがある。EPOは、赤血球の産生を促すホルモン、自己血輸血は、自分の血液をあらかじめ採血保存しておいて、競技の直前に輸血する。どちらも、血液による酸素供給能力の促進に効果がある。これらのドーピングにより、34%の持久力(スタミナ)の向上が期待され、ランニングマシンで8km走ったときに44秒の所要時間の短縮が望まれるという。持久力の定義がよくわからないが、ランニングマシンのデータを参考にすれば、自分の海老江トライアスロン(水泳750m、自転車25km、ラン6km)の所要時間1時間41分(参加107名中の50位)は、うまくドーピングしたとして、1時間39分(40位)くらいになる。
 ドーピングの効果は、その人の遺伝的性質、トレーニング、スキルの程度によって大きく異なるはずだが、われわれ素人にとっては、スポーツの目的が異なるし、無意味だと思う。記録向上のためには、地道にトレーニングした方が早いし確実だ。しかし、プロ選手によるステージレースの場合、2〜3週間で3,000km以上走って、数分の差が運命を分ける。
 スポーツの世界では、規制が年々厳しくなっており、将来的に、結果がリスクに見合わなくなれば、ドーピングを犯す組織や選手は減っていくかもしれない。一方、病気の治療や予防を目的としない健常な一般人のドーピングは、スポーツとは直接関係のない美容や知力・体力、寿命の維持向上などのため、今後盛んになっていきそうだ。その際、自転車ロードレースを始めとするプロスポーツで非合法的に得られた知識は、貴重な臨床データになるだろう。




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